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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連して現在分かっていることと一人一人ができる対策:第十六報告(循環器救急医療回避との併用)

[2020.10.27]

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連して現在分かっていることと一人一人ができる対策:第十六報告(循環器救急医療回避との併用)

 日頃の診療や電話相談中にほぼ毎日患者さんから受けるCOVID-19関連の質問に沿って、皆さんに正確にお伝えしたい情報について、最前線の臨床医の一人として、今後しばらく院長ブログのシリーズでお伝えしたいと思います。

質問16:今年度冬季の季節性インフルエンザ流行期に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の市中感染が続いた場合、毎年同時期に増加する循環器救急医療を避けるために、個々人が注意すべきことには何がありますか?

解答の1例:以下のような最新の医療情報に基づいて、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症、肥満症などのいわゆる生活習慣病またはその傾向がある方は、季節性インフルエンザ流行期に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかった際に、重症化して循環器救急医療を要する可能性が高いため、今年度秋季のうちに循環器専門医などの「かかりつけ医」を決めておき、日頃からの綿密な診療継続により個々人のCOVID-19対策管理を高めておくことがとても大切と思われます。

 一般的に「患者さんとかかりつけ医の関係は縁のものとされています」が、たまたまCOVID-19が流行した今年度は当院開院して15年目にあたり、私が循環器専門医であるためか、この半年間はこれまでで最も多くの患者さんが特定健診や人間ドックなどの結果から循環器系の精査を必要として受診しました。その後はほぼ全員が、今年度秋冬季のインフルエンザとCOVID-19の同時流行期に、一緒に対処する「かかりつけ医」として当院を選んでいただき、一般的な生活習慣の改善に加えて、個々人の体質や特徴などに合わせて個別のCOVID-19対策管理を続けています。お陰様で現在までのところ10年以上前から通院している90歳代の患者さん達を含めて、かかりつけ患者さんや当院スタッフの中でCOVID-19検査の陽性者は一人もいませんでした。

 「かかりつけ医」がいないなどでお困りの方は、当院の診療時間内の午前または午後の最後30分は、さまざまな特別個別診療しながら、いろいろな電話相談の時間としていますので、どうぞご利用ください。

関連する医療情報の要旨:最近日経メディカルに掲載された「心血管疾患としてとらえたCOVID-19:新型コロナウイルスは心血管系を直接攻撃するのか?」によれば、コロナウイルス(SARS-CoVおよびSARS-CoV-2)は、宿主の細胞表面に発現しているアンジオテンシン変換酵素(ACE)2を認識して感染する。ヒトにおいてACE2は、肺だけでなく消化管(唾液腺、舌線などを含む)、腎臓、心臓、血管に幅広く発現しているとされている。ACE2はACEとは異なり、アンジオテンシンIIからアンジオテンシン-(1-7)への変換を行って、レニン・アンジオテンシン(RA)系を抑制する。ACE2には、敗血症などによる肺損傷からの保護作用がある。増殖したコロナウイルスはACE2の発現を低下させ、急性肺不全など重大な症状を引き起こすだけでなく、急性心筋障害や心血管系の慢性的な障害も惹起する。ACE2は心臓にも著明に発現していることから、心臓は新型コロナウイルスの主要な標的臓器の1つとされている。

 2020年は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の発見20周年である。その記念すべき年に、期せずして、人類の日々の営みさえ大きく変えようとしているCOVID-19パンデミックの原因ウイルスSARS-CoV-2感染における細胞受容体であることが同定され、ACE2に大きな注目が集まることとなった。ともすればネガティブな悪玉イメージが定着しそうな雲行きのACE2であったが、ここに来て本来の領域でポジティブなニュースが飛び込んできた。

 そもそも、ACE2は細胞膜メタロプロテアーゼで、古典的レニン・アンジオテンシン(RA)系における中心的な調節因子アンジオテンシン変換酵素(ACE)のホモローグである。言うまでもなくACEは、アンジオテンシン(ang)IからangIIを産生し、angII1型受容体(AT1R)を介する細胞増殖・肥大、酸化ストレス、血管収縮といった生理学的あるいは病態生理的作用に関与する。それに対して、ACE2はangIおよびangIIをそれぞれang 1-9およびang 1-7に分解、すなわち、angII産生を減少させる。さらに、ang 1-7はmas受容体を活性化してAT1Rの作用を抑制する。すなわち、ACE2は過剰に活性化したRA系に対する内因性抑制機構で、臓器保護的に作用するkey moleculeである。

 高血圧や心不全・冠動脈疾患・心房細動といった心血管疾患患者において、血漿ACE2濃度・酵素活性あるいは尿中ACE2濃度が検討されている。これまで、心血管疾患患者を対象としたいくつかの小規模な観察研究において、血漿ACE2活性が高いと心血管疾患アウトカムが悪いことが示唆されていた。

 そこで、カナダ・マックマスター大学のSukrit Narula氏らは今回、大規模な登録研究コホートを用いて、血漿ACE濃度の規定因子、心血管疾患イベントとの関連を検討した(Lancet誌2020年10月3日号掲載の報告)。国際的な一般住民の前向き登録研究Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE)に含まれる5大陸14ヵ国1万753例(フォローアップ期間中央値9.42年、IQR:8.74~10.48)を対象にnested case-cohort研究が行われた。その結果、血漿アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)濃度の上昇は主要な心血管イベントのリスク増大と関連することが示された。ACE2は、レニン-アンジオテンシン系ホルモンカスケードの内因性の拮抗的調節因子であり、循環血中のACE2活性と濃度の上昇は、さまざまな心血管疾患を持つ患者の予後不良マーカーとなる可能性が示唆されていた。

 血漿ACE2濃度の規定因子は、性別(男性)、次いで地域(最高は東アジア、最低は南アジア)、高BMI(肥満症)、糖尿病、高年齢、収縮期血圧、喫煙、LDLコレステロール値の順であった。メンデルのランダム化法により臨床的リスク因子と血漿ACE2濃度の関連を検討したところ、肥満と糖尿病において因果関係が示唆された。

 血漿ACE2濃度高値は、年齢、性別、地域、古典的心臓リスク因子(収縮期血圧、non-HDLコレステロール値、喫煙、糖尿病)で調整した全死亡リスクの増加と関連した(1SD増加ごとのハザード比:1.35、95%信頼区間:1.29~1.43)。心血管死(1.40、1.27~1.54)および非心血管死(1.34、1.27~1.43)の調整リスク増加のいずれとも関連した。さらに、初発心不全(1.27、1.10~1.46)、心筋梗塞(1.23、1.13~1.33)、脳卒中(1.21、1.10~1.32)、糖尿病(1.44、1.36~1.52)の調整後発症リスクとも関連した。

 血漿ACE2濃度の生命予後や心血管イベントの予測能も検討された。血漿ACE2濃度は、補正後の全死亡(p<0.0001)、心血管死(p<0.0001)、非心血管死(p<0.0001)の最も優れた予測因子であった。心筋梗塞(p<0.0001)に対しては喫煙、糖尿病に次いで、心不全(p=0.0032)と脳卒中(p=0.0010)に対しては収縮期血圧、糖尿病に次いで、それぞれ3番目に強い予測因子であった。

 大規模な観察研究の結果、血漿ACE2は生命予後や主要な心血管イベントの有用なリスクマーカーとなる可能性が示唆されたわけである。

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