新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連して現在分かっていることと一人一人ができる対策:第二十二報告(変異種に対する具体策)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連して現在分かっていることと一人一人ができる対策:第二十二報告(変異種に対する具体策)
日頃の診療や電話相談中にほぼ毎日患者さんから受けるCOVID-19関連の質問に沿って、皆さんに正確にお伝えしたい情報について、最前線の臨床医の一人として、今後しばらく院長ブログのシリーズでお伝えしたいと思います。
質問22 : 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異種がイギリスで大流行し、日本でも確認されましたが、全国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の増加・拡大が続いている現時点で、個々人ができることには何がありますか?
解答の1例:以下のような医療情報をよく理解し上で、感染力などが高まった変異種に対しても、従来の新型コロナウイルスに対する通常の対策(マスク着用、手洗い、3密の回避など)をきちんと行いながら、究極の対策「濃厚接触の完全回避」、「完全ひとりぼっち生活」、「食事中はいっさい話をしないで食後に全員マスクをしてから会話」などを二度目の緊急事態宣言中は、対象外地域を含めて日本全国でしっかり継続することが極めて重要です。各自の生活圏内でCOVID-19が収束するまでの期間は、ご自身と大切な仲間や家族を守るために、ご理解・ご協力のほど、どうぞよろしくお願いします。
関連する医療情報:新型コロナウイルスの変異種がイギリスで流行し、日本でも確認されました。変異種とは何なのか、まとめました。
Q:この変異種は、何がどう変わったのでしょうか
A:コロナウイルスの表面には、「スパイク」と呼ばれるとげのような「突起」があります。口や鼻などから体に入ってきたウイルスは、まず、この「突起」を、ヒトの細胞にくっつけて細胞の中に入り込み、「感染」をひき起こします。今回の変異によってこの「突起」がヒトの細胞にくっつきやすくなった可能性があります。さらに詳しく説明すると…変異自体は、ウイルスの遺伝子で起きています。ウイルスが増殖する際に、自分と同じものをどんどん作る必要があり、そのための設計図が遺伝子です。遺伝子は細かい文字の列(塩基配列)でできており、それに従って、あるべき場所にあるべき種類のたんぱく質が作られることで、元のウイルスと同じものを複製、コピーするようにしてウイルスが増えていきます。しかし、一部を写し間違えてコピーしてしまうことがあり、それが「変異」です。新型コロナウイルスの遺伝子(設計図)には、およそ3万個の文字が並んでいます。その並びをすべて調べると、今回の「変異種」の遺伝子(設計図)と中国で最初に流行した「武漢型」(武漢株ともいう)の遺伝子では、そのおよそ3万文字のうち、20以上の違い(変異)が見られ、そのうち10の変異が、「突起」にかかわるものでした。この変異で、ウイルスがヒトの細胞に入り込む際に、重要な役目を担う「突起」を形作っているたんぱく質の種類が変わったということです。
Q:変異は珍しいことなのでしょうか
A:いいえ、コロナでもインフルエンザでもウイルスの変異はよく起きます。当初は、新型コロナウイルスでは、ひと月にだいたい2個程度の変異が起きると言われていました。(今後はもっと頻繁に変異が起きる可能性もある)注目すべきは、変異によってウイルスのどの部位が変わるか、です。日本はじめ各国の政府や研究所は、新たな感染者のウイルスを集め(全部は無理ですが)一部について、遺伝子(設計図)を解析し変異を詳しく調べています。ウイルスが見つかってからおよそ1年、すでに様々な変異が起きたことがわかっていますが、ウイルスの性質にあまり影響しない変異もあり、その場合、政府や研究者がその変異を把握しても、問題視しないかもしれません。一方、今回の変異は、ヒトの細胞に入り込むに、重要な役割を果たす「突起」にかかわるものでした。「突起」のたんぱく質が変わり、細胞にくっつきやすくなったため、感染者の増加につながったとみられ、イギリス政府は、重大な変異だと判断して世界中に情報を発信したわけです。専門家は、感染が広がれば広がるほどウイルスがコピーされる回数が増え、変異する可能性も高くなると話しています。なお、イギリス政府は、今回の「変異種」は、一人の患者で起きた可能性があるとしています。たとえば、ある患者は、ウイルスとたたかうための免疫がうまく働かず、長い期間、感染した状態にあり、その患者の体内で、ウイルスの変異が加速度的に積み重なったという仮説が考えられるとしています。一方で、イギリス政府は、ヒトから動物に、動物からヒトに感染して、その過程で変異した可能性やウイルスの変異の解析があまり行われていない国で、覚知されないまま、一定の期間かけて、徐々に変異が積み重なったという可能性、その2つについては否定的です。
Q:今回の「変異種」はどんな影響を与えるのでしょうか?
A:イギリスでの分析では、今まで流行してきた型よりも、感染のしやすさ(transmissibility、感染性)が最大70%高いと推計されています。また、感染者の体内にあるウイルス量も、従来の型よりも増えている可能性があるということです現時点では、重症化を示すデータは認められないが、症例の大部分が重症化の可能性が低い60歳未満の人々であり、評価に注意が必要としたほかワクチンの有効性への影響はわからないとしています。新型コロナウイルスのワクチンは、ウイルスの「突起」が、ヒトの細胞にくっつくのを防ごうとする仕組みなので、「突起」が大きく変わればワクチンが効きにくくなる可能性はあります。しかし、アメリカやイギリスで接種が始まったファイザーのワクチンなどは、これまでにない新しいタイプなので、「突起」の変化にあわせて設計を変更し、比較的短期間に大量に製造することが可能だという見方があります。
Q:「変異種」は、日本の空港検疫でも見つかり、国内で家族に感染したとみられる例も確認されましたが、今後どうなる?
A:イギリスで流行している「変異種」はデンマークやオランダなど複数の国でも見つかりました。また、南アフリカでも別の「変異種」が確認されました。こうした事態をうけて、日本政府は、2国間協定を結んでいる中国や韓国、タイなど11の国と地域の企業駐在員などを除いて、これまで緩和していた海外からの外国人の入国を12月28日から、原則、一時停止しました。しかし、すでに日本国内にこの「変異種」が入って感染が広がっている可能性もあります。仮に、今回の「変異種」が入ってくるのを抑えたとしても、日本で、ウイルスが同じような変異を起こす可能性もあります。厚生労働省は、ウイルスが変異しても、人々がとるべき対策はこれまでと同じだとして3密を避け、大人数の会食を控え、マスク着用などを徹底するよう呼びかけています。ウイルスが、ヒトの細胞にくっつきやすいように「変異」したとしても、多くの人が、マスクなしの飲食といった感染リスクが高い行動をしなければ、ウイルスは、ヒトの体内に入る機会を失って、増えることができなくなります。基本的な感染対策を地道に続けることが今こそ、重要です。