新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における各種呼吸音の変化と副雑音聴取の可能性
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における各種呼吸音の変化と副雑音聴取の可能性
現在注目されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連して、元胸部心臓血管外科医としての22年間に循環器とともに呼吸器診療にも携わり、その後開業し一般内科・外科医として15年間に多数の風邪症状(インフルエンザやマイコプラズマ、各種細菌等による呼吸器感染症を含む)患者さんを身体診察してきた経験から私見を述べたいと思います。
一般的な身体診察としての視診、聴診、打診、触診のうち、呼吸器疾患の診断に最も役立つのは、循環器疾患の場合と同様に聴診です。通常医師が聴診器を用いて行う呼吸器系の診察では、正常な呼吸音は聴取する部位により、気管呼吸音、気管支呼吸音、肺胞呼吸音の3種類が単独もしくは複数合わさって、いろいろな大きさ、性状、位相(呼気、吸気または両方)にて聞こえ、各疾患により呼吸音の減弱・消失や呼気延長などが認められます。
これに加えて、様々な呼吸器疾患の際に聴取される通常の呼吸音ではない音を副雑音と言い、図示した通り各種ラ音と胸膜摩擦音などがあります。
今回のCOVID-19の国内患者さんが増加するに伴い、その診療に携わっている多くの呼吸器・感染症専門医の先生方から様々な臨床経験が報告されつつあります。さらに個人的に親しくさせていただいている複数の呼吸器専門医の方から、現時点での風邪症状患者さん達の診療における留意点をいろいろ教えてもらっています。私自身もほぼ毎日、電話相談・予約を受けて、通常診療の午前、午後最後の時間を感染症専門外来として、全職員を帰してから自分一人で医療用マスクを装着し、医療用ウイルス除去装置駆動中の待合室で複数窓の開放換気しながら、マスクした患者さん一人ずつの個別診療を続けています。
以上の経験を総合的に考えると、呼吸器専門医の先生方からよく報告される胸部CT上の両側中下肺野の背面や側面に多く認められる多発性の間質性肺炎像に相応する呼吸音の変化や新しい副雑音の聴取は、COVID-19の疑い患者さん達の中で重症化しやすい人を早期に発見するのに役立つのではないかと思います。防護服等一式がない中でも対面接近を避けて、待合室で上着の後ろだけまくらせてもらい、胸部両側背面の上中下6点および胸部両側面の中下4点の呼吸音や副雑音を丁寧に比較聴診しています。その中で少しでも呼吸音の変化や副雑音が聴取された場合には、患者さんや家族と一緒に接触者電話相談センターや登録連携病院の発熱外来などに連絡・相談しています。
多くの報告によればCOVID-19患者さんのうちで重症化するのは2割程度と言われていますが、一方で症状のほとんどない方を含めて胸部CT上は全体で6割くらいの人に淡い間質性肺炎像が認められています。PCR検査の精度がせいぜい7~8割程度と言われている現状では、発症後1週間くらいで急速に悪化する患者さん達を早期に見分けるために呼吸器系の聴診が役立つのではないかと個人的には期待しています。
キタ・クリニック院長 北村昌也