心雑音と感染性心内膜炎の予防
心雑音と感染性心内膜炎の予防
保険診療、健康診査、人間ドックなど、いずれの機会でも行われる身体診察は、主に視診、聴診、打診、触診の4つが行われます。この4つの中で、最も救急救命医療を要することが多い脳心臓血管疾患(循環器疾患)を早期診断する際に役立つのは、頸動脈を含めた心臓血管系の聴診です。特に心臓の聴診は、各種心疾患の診断に欠かせないものであり、循環器専門医は特別な聴診器を用いてどんなに小さな音でも聞き逃さないようにしています。
正常な心臓の聴診では、血液を押し出す時に左右の心室の入口の弁が同時に閉まるI音と、その押し出した後で出口の弁が閉まるII音の2つの音のみが交互に聞こえます。心臓に少しでも異常が起こると、正常心で聞こえない様々な心雑音や過剰心音などが聴診で確認されます。特に心雑音は小さな音(Levine I~II度)でも異常血流があることを示しているため、後述の感染性心内膜炎の予防にはとても大切です。
感染性心内膜炎とは、日本循環器学会ガイドライン(JCS 2017)によれば「心臓弁膜や心内膜、大血管内膜に細菌集簇(しゅうぞく)を含む疣腫(ゆうしゅ)を形成し、菌血症、血管塞栓症(脳を含む)、心臓障害などの多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患である」とされています。要するに生涯にわたりできるだけかからないようにした方が良い感染性疾患です。
それではどのような人がかかりやすいのかは、同ガイドラインによると、身体の中に人工物が入っている人以外では、弁膜疾患や先天性心疾患などに伴う異常血流が重要とされています。この異常血流を最も簡便に早期診断できるのは、循環器専門医が行う丁寧な心臓聴診です。
以上のことから、生涯にわたり感染性心内膜炎にかからないようにするには、保険診療、健康診査、人間ドックなどの機会毎に、循環器専門医が行うような丁寧な心臓聴診を定期的に受けて、もし小さな心雑音であっても新たに認められた場合には、心臓エコー検査等により異常血流の部位や程度を確定することが重要です。そして有意な異常血流が認められた方は、風邪をこじらせた咽頭喉頭炎、扁桃腺炎や尿道膀胱炎、出血を伴う外傷や歯科治療、嘔吐や下痢を伴う胃腸炎などに伴う菌血症をできるだけ避けることが大切です。
その上で万が一菌血症が疑われた場合には、37度台でも持続する不明熱や心雑音の変化等に注意して、必要な際には適切な抗菌薬治療を早期に行いながら綿密な経過観察を継続すべきと思われます。