家庭血圧の3点チェックと大動脈疾患の進行予防
家庭血圧の3点チェックと大動脈疾患の進行予防
循環器救急医療の中で、発生すると致死率が高く、必ず緊急治療を要する疾患の一つは大動脈疾患の急性増悪(急性大動脈解離と大動脈瘤切迫破裂)です。様々な生活習慣病により大動脈の壁肥厚・拡大・延長などが起こりますが、特に影響が大きいのは高血圧患者さんの日頃の血圧コントロールです。
しかしながら毎日約10万回の心拍動すべての血圧測定は不可能であり、いわゆる24時間血圧計でも数分~5分毎の測定が限界です。しかも血圧測定の間隔が短いほど、患者さんにストレスをかけてしまい、日頃の血圧より高くなると思われます。
そこで当院で高血圧症の患者さんにお勧めしているのが、就寝(眠る)直前と起床(目覚めた)直後の安静時血圧と日中(朝から晩まで覚醒中の)活動直後の労作時血圧を毎日測定し血圧手帳に記録するいわゆる「家庭血圧の3点チェック」です。
家庭血圧の3点チェックが有用な理由として、通常の健康診断や人間ドックで行われる昼間の安静時の血圧測定では見つかりにくい「隠れ(仮面)高血圧症」のうち、昼間より夜間に血圧が高くなる「夜間高血圧」タイプ、早朝に睡眠が浅くなるとともにモーニングサージと呼ばれる自律神経やホルモンなどの影響で血圧が高くなる「早朝高血圧」タイプ、さらに日中の運動直後や仕事の会議中など心臓血管系の負荷バランス変化による「血圧変動増大」タイプのいずれも診断可能なことです。
一方、大動脈疾患の早期発見・部位診断・経過観察に有用で患者さんの身体に負担をかけない低侵襲な検査方法として、当院で行っている心臓血管エコー検査と胸部側面X線検査があります。まず、通常の心臓エコー検査に加えて、特に大動脈基部(はじまりの部分)の大きさ・壁の状態とともに大動脈弁輪の大きさや逆流の程度、上行・弓部大動脈および腹部大動脈の大きさ・壁の状態などを調べます。次に、エコー検査では肺(空気)に囲まれている胸部下行大動脈の状態は診断できないため、健康診断等で行われる胸部正面X線検査の際などに、肺がん検診として行われる胸部側面X線検査を利用して胸部下行大動脈全体の形や大きさなどを調べています。
当院では、以上のような家庭血圧の3点チェックと大動脈疾患の早期発見・部位診断・経過観察に基づいて、各種の高血圧症患者さんの血圧コントロールを、生活習慣の改善指導で足りない部分に限って、綿密な薬物治療を継続しています。
高血圧症の薬物治療で大切なことは、日中安静時も血圧が高い持続型高血圧症か、前述の「隠れ(仮面)高血圧症」の3つのタイプのいずれかを判別し、しかも心臓・血管・血液・肺(呼吸器)などの検査から高血圧の主因や副因を特定した上で、最低量で最適な薬剤の組み合わせや内服のタイミングを調整することです。
当院では、たとえば持続型高血圧症は、通常朝食後のカルシウム拮抗薬の内服により日中の血圧変動をコントロールし、夜間もしくは早朝高血圧が残る場合に夕食後のアンジオテンシンII受容体拮抗薬の内服を加えています。このように、内服薬剤の種類が増えても降圧剤全体としての一日量が少なくなったり、それぞれの拮抗薬をより優しいものにしておきます。こうすることで、生活習慣の改善や春夏秋冬の季節などにより血圧のコントロールが良くなった時に、毎日3点チェックの血圧の中で良くなった部分だけ薬剤内服量の減量やさらに優しい薬剤への変更などが可能です。
なお、以上のような当院での薬物治療の調整は、脂質異常症や血栓形成傾向などについても同様であり、通常の身体診察や一般的な検査ではとらえきれない患者さんの状態の変化を綿密に調べることで、循環器救急医療を必要としない中では最低量・最適な薬物治療の継続や安全な休止・中止が可能です。
現在各種薬物の内服を継続中の患者さんで、量や種類などについて確認したい方は、当院の診療時間内に随時お電話で相談していただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。